カーテンの儀式

 娘は、キャッと叫んで、「いやだわ、いやだわ」と大声で泣き叫んで母親にむしゃぶりつく。いや、できるだけ大きな声で泣き叫ばねばならない。これが結婚の公式発表である。もちろん、娘も含めてみんなが、すでに彼女の結婚のことを知ってはいるが、赤い布がかぶせられた時に、娘は大声で泣き叫び、「いやだ、いやだ」というふり、、をする。それと知りながら大声で泣き叫ぶということが肝要なのである。(中略)「れろれろれろれろ……るるるるるるる……」。娘ともみ合いながら母親は、舌の先を微妙に早くふるわせて、かん高い叫びをあげる。

 このザガーリードを聞きつけて、女たちが、あたふたとかけつけてくる。結婚のことは、すでに知れわたっているが、驚いたふりをして、母子の争いのまわりに集まってくる。それから、母親の方の加勢をして、娘を部屋の一隅に追いやり、そこに、赤い花模様の布をカーテンのようにつりさげる。このカーテンのかげに花嫁となる娘は閉じこめられる。

(『アラビア・ノート』(ちくま学芸文庫版)、116頁より』)

この記述に関連した最新の現地調査による研究成果は『サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年』(河出書房新社、2019年)144-145頁「結婚」にあり