ハリーム(既婚の女たち)の夜会では、どっきりするような猥談をきゃっきゃっと、とりかわしたりもする。手ぶり身ぶりもはいることがあって、ひどく生々しい。わたしが恥ずかしがると、おもしろがって、「あんたはビント(未婚女性)みたい」と、よけいに話をエスカレートさせてわたしをからかう。(中略)わたしのきょうだい分のようなヌールやマリアムなどは、「かまわないよ」といってくれるが、いろいろな女性がたくさん集まってくる夜会の写真は、とうとう一枚も撮らなかった。あの色彩ゆたかなファッション、うたい踊り笑いさざめく女たちの集いは荒野の夜に、夢のような美しい絵巻物を展開しているのであるが、それをカメラやカセットレコーダーのようなちゃちな文明器具で撮りおさめるよりは、彼女たちのわたしへの信頼と好感のほうを大事にすべきだということは、はっきりしていた。
(『沙漠へ、のびやかに』20頁より)
この記述に関連した最新の現地調査による研究成果は『サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年』(河出書房新社、2019年)36-37頁「写し撮られた生活世界」にあり