女性の部屋ハラム

 バイト(住居)は、みな、妻に所属するものとなっている。「あれは誰のうちかバイト」と聞くと、そのバイトに住んでいる男の名を使って、「ムハンマドのうちだ」と答える。

 少々誤解されやすい点である。女の名前を、決して声高によばない。なるべく、女家族員の名は隠しておくという慣習があるからである。しかし、家屋そのものは、昔から伝統的に女性のものということになっている。(中略)

 セメントづくりなどの定着家屋に住むようになっても、中のつくりの基本型は、テントのものと同じで、必ず、女の部屋(兼居間)と、客間(兼男の部屋)に分かれている。夫婦の営みがなされるのは女の部屋であり、この部屋をハラムとよぶ。日本の男性などが羨望をこめて想像するハレムという言葉は、このハラムの訛りである。ハラムとは、神聖にして犯すべからざる場所というアラビア語である。メッカやメディナ、エルサレムのこともハラムとよばれる。女性、特に母性をもつにいたる女性が、神聖なるもの、大切にされるべきものという観念と関係して、女の部屋がハラムとよばれるのである。ハラムの主は、一人の女性、ホルマである。決して複数の女性が一緒にいるのではない。ホルマは、神聖、尊厳、タブーという意味から転じて婦人という意味になった。

(「遊牧の女性-アラビアの砂漠に生きる人たち-」、214-215頁)

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