足輪の音色

 「写真にとっておきたいな、ないしょでポケットにカセットレコーダをしのばせておけばわからないかな」などというわたしの雑念は、女たちの夜会がたけなわになるにつれ、いつのまにか、なくなってしまうのが常だった。馥郁としたお香の香り、お互いにふりかけ合う薔薇水。コーヒー、紅茶。そのうち、だれかが太鼓をたたきだし、だれかがうたいだす。円のなかに、ひょいと飛び出て、つつっつつっと足をじょうずにすべらせフルハール(足輪)の鈴を、ちりりんちりりんと鳴らしながら、色とりどりの衣装をゆるがせながら、天女たちが荒野に舞いおりてきたかのように、のびやかに、たおやかに、からだをくねらせる。

(『沙漠へ、のびやかに』、21頁より)

この記述に関連した最新の現地調査による研究成果は『サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年』(河出書房新社、2019年)106-107頁「腕輪、足輪、指輪」にあり