肌着にみられる工夫

 上半身には、ガーゼを細工した袖ぐりの広いブラウスを着る。これが、ブラジャーにもなる。中央をカフスボタンでとめるようになっている。このカフスボタンは、くさりやひもで連ねられていて、洗濯の時には、全部、とりはずしてガーゼだけを洗う。とりはずしたカフスボタンは、くさりで連なっているから、万が一、砂の上に落としても一つさがせば全部見つかるしかけになっている。このひもつきカフスボタンは先に述べた男のタウブにもつけられる。このズッラとよばれる一連のボタンには、しばしば金が使われ、装飾用兼財産保護の役割ももっている。

 ボタン穴は、首のところからほぼ等問隔にあけられているが、乳房の間にあたるあたりは、赤ん坊に乳房をふくませるのに都合のよいように微妙に調節されている。

 このガーゼのブラウス兼ブラジャーはスダイリーヤとよばれる。ガーゼは肌にやさしく、汗の吸収もよく洗濯も簡単、授乳にも便利で、しかも繊細で美しい模様が織りこまれているので、今でも私のお気に入りのブラウスになっている。彼女たちは、小さな一枚のガーゼを上手に裁ち、たて糸を抜いて、何本かを手でつまんで模様をつけるなどし、一カ月ほどかかって、やっと一つ作りあげる。私たちのブラウスと同じような形であるが、下着でもあるので、乳房の上あたりから必ず、フスターンやタウブで覆う。

 上半身のスダイリーヤに対して、下には、スルワールとよばれるもんぺのようなものをはく。長さ六〇センチ、幅一五センチほどの白い帯をおへその上ぐらいからたらして、股のあたりをかくす。このたれ帯はダッカとよばれ、この名をきくと、セックスを連想して、にやけた顔をする男たちもいる。スルワールの腰ひもは、容易にとけぬくらい、きつく結ぶのが女のみだしなみとされている。

(『アラビア・ノート』(ちくま学芸文庫版)、75—76頁より)

この記述に関連した最新の現地調査による研究成果は『サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年』(河出書房新社、2019年)80-81頁「肌着―暑熱を逃がし、肌を守る工夫」にあり

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