静かな祈りは、人間にエネルギーを与えるのだろうか。祈りの終わったアハマドとマリアムはきびきびと仕事を始める。子どもたちを叩き起こして、家畜の世話をさせる。アーミナと私は、またいつものように水汲み。今日は、ガージーがロバを連れて汲みに行ってくれるから、一回ですみそうだ。アハマドは、コーヒーづくり。コーヒー豆を煎る香りが流れ、それを小さなすりこぎでとんとんとつぶすのどかな音が響く。アラビアの朝のメロディ。マリアムは、アラビア風ぺたんこパンを家畜のふんをかためた固形燃料でやく。いつものように、今日もお香をたき、砂庭のお膳のそばに置く。香りの好きな人たちだ。
(『アラビア・ノート』(ちくま学芸文庫版)、36頁より)
この記述に関連した最新の現地調査による研究成果は『サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年』(河出書房新社、2019年)140-141頁「半世紀前の女性の一日」にあり