ナツメヤシ製からブリキ製へ

 近年、地下水位が低下しているため、なつめやしが枯れ、したがってウッシャの材料が不足してきているので、あまり作られなくなってきている。そのかわりにサンディガ(箱の家)とよばれる住居がふえてきた。これは石油缶、またはサムナ(食用油脂)のブリキ缶を平たくうちのめして木の板にはりつけ、一辺の長さが三メートルほどの真四角な小屋にしたものである。色とりどりの石油やサムナの商標などが缶についたままなので、まるでみのむしが千代紙でふくろを作ったように、ちょっとユーモラスで楽しい。新しく作られたばかりのものは、アラビア文字や商標などがあざやかで、えらく華やかである。しかし、ブリキ缶だから、中は釜の中のように熱くなる。たまに降る雨の時には、この中で寝るが、ふつう物置きになっている。

(『アラビア・ノート』(ちくま学芸文庫版)、88頁より)

この記述に関連した最新の現地調査による研究成果は『サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年』(河出書房新社、2019年)66頁「ブリキ製の箱の家―1960年代のニューモード」にあり

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