砂嵐と太陽とヴェール

 彼女たちは、シャルシャフとよばれる花柄の大きなガーゼを頭からすっぽり被り、アイシャドウをした長いまつ毛と黒い瞳だけをのぞかせている。ガーゼの感触はやわらかく、にじみ出る汗をよくとってくれるばかりでなく、ぎらぎら焼きつく砂漠の太陽や、ともすると口の中にまで入って来て舌をじゃらじゃらにする砂風や砂嵐から守ってくれるのだ。

用足しをしようとして太陽のおそろしさを知らない私がシャルシャフなしでひょいと外に出ようとすると(遊牧民のトイレは、必ず戸外である)、彼女たちは、大あわてで追いかけて来て、「あんたは、また、そんな恰好で外に出る!太陽に喰われてしまっても知らないよ!」とどなりながら、大きなガーゼの布を頭から被せてくれるのだった。

だから彼女たちは、昼間は家の中でもいつもこのヴェールを被っている。

(「遊牧の女性-アラビアの砂漠に生きる人たち-」188頁より)

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